2019年5月に来日したギタリストのJonathan KreisbergとNelson Verasが、東京で特別ギター講座を開催した。
4分の7拍子の「Stella By Starlight」で始まった本講座は、参加者との質疑応答という形式で約2時間に渡った。ここではその内容を紹介していこう。
2019年5月7日
ウォーキン渋谷青山通り店
主催:AMSA Records
Jonathan Kreisberg meets Nelson Veras 〜JAPAN TOUR 2019〜
5/1 鹿児島 – 真明
5/2 広島 – Lush Life
5/3 神戸 – Bar Request
5/4 京都 – Room 335
5/5 名古屋 – Star Eyes
5/6 名古屋 – Star Eyes
5/9 東京 – Pit Inn
5/10 横浜 – Motion Blue
【特別ギター講座】 5/7 東京 – ウォーキン渋谷青山通り店
新宿Pit Innでのライブ写真 [fontsize size=”2″]写真提供:AMSA Records(Photo by Goccia Tuskia)[/fontsize]
ジョナサン・クライスバーグ流Stella By Starlightのモジュレーション(変調)
アルバム「The South Of Everywhere」のStella By Starlightでやっているモジュレーション(変調)はどのように考えているのか、という質問からはじまった。
ジョナサンが良く使うのは次の2つ
- ケーデンスを変える
- コモントーンを使う
それぞれ実演してくれたのでみていこう。
キーCのStella By Starlight
変調前の例として弾き始めたのがキーCのステラ。コードネームには一般的なステラのコード進行を記譜してあるので、ジョナサンがコードをどう捉えているかも参考にして欲しい。
Bb7からCMa7へ進む箇所をBb7-EbMaj7に変調したのが次の譜例。
最後のFm7-Bb7は、Bb音をコモントーンとして変調した例だ。Bb音はGm7のb3rd、Fm7の11thになる。
続いてブリッジ部分でのコモントーンを使った変調例。
Ab7をD7の裏コードと捉えてGMa7に変調。F#7からAm7(b5)はコモントーン(D音)を使った変調。D7からDm7はケーデンスを変えた変調だ。
聴いている人が気づかない変調をすることもあれば、今弾いたAb7-GMa7のように、あからさまに変調を感じさせる演奏をすることもある。
Jonathan Kreisberg
あからさまに変調させるアイデアとしてAb7からG/Bに変調する例。
変調とは意味合いがことなるが、アレンジのアイデアとして曲のサイズを変える例を弾いてくれた。5小節目のEm7(b5)を原曲キー(Bbメジャーキー)の最初のコードと捉える手法だ。
今までの方法をまとめた演奏例
あからさまに変調させるのが良いときもあるし、気づかれないように変調させるのが良いときもある。最終的には演奏する前に、変調後の響きが自分の頭の中で聴こえるようになってくる。そのためには、オリジナルのコード進行を完全に把握しておくことが必要だ。
Jonathan Kreisberg
ネルソン・ヴェラスが弾くパーカーのジャストフレンズ
ジャズの曲やフレーズがフィンガーピッキングだと難しいのではという質問。
ネルソンの場合、ギターをはじめたときからフィンガーピッキングだったので、ピックで弾くことの方が10倍難しいとのこと。
ここでスウィングの例として弾いてくれたのがチャーリー・パーカーのジャストフレンドの出だしのフレーズだ。
弾くときに使う指は、その日の爪の状態によって変えているよ。
Nelson Veras
ネルソンもパーカーをコピーしていたという発見と、やはりジャズをやる上でパーカーは誰もが通る道だと再確認した。
過去のクリニック動画で弾いているドナ・リーは楽譜にしてあるので参考にして欲しい。
[fontsize size=”2″]写真提供:AMSA Records(Photo by Goccia Tuskia)[/fontsize]
ジョナサン・クライスバーグのフィンガーピッキングに関して
もちろん。ピックと指での音量差やトーンの違いが出ないことを心がけている。ネルソンが親指とそれ以外の指で音量差がでないようにしているのと似ているかな。
単音をピックー中指ー薬指それぞれで弾いて音に違いがないようにする練習や、インターバルのあるフレーズを均一な音で弾く練習をしている。
インターバルのあるフレーズとして弾いてくれたのが次の譜例だ。
言われなければ気づかないくらい、ピックと指での音に差がなかった。おそるべし。ちなみにクロマチックを含む単音ラインなどは全てピックで弾いているとのこと。
トリオ編成などでコードとメロディを一緒に弾く場合は、メロディの音を強く、コードの音は弱く弾いている。ピアニストのように弾きたいんだ。
Jonathan Kreisberg
変拍子の練習方法
変拍子に関する質問では、ジョナサン、ネルソンそれぞれのリズムに対する捉え方が垣間見れた。
基礎の練習は2人とも同意見。まずは1拍を3、5、7に分け、次に2拍を3、5、7で分ける感覚を身につける。(譜例の下段はメトロノームを4分音符で鳴らした位置)
基本のリズムを身につけたら、クラーベのリズムを使ってひたすら弾いていく。
Nelson Veras
と言って実演してくれたのが3-3-2-2のクラーベを使った例だ。
ジョナサンが実演してくれたのは、馴染みのある5拍子のリズムを使って少しずつ変化を加えていく練習法。
- 1小節目:基本パターン
- 2小節目:コードの位置を3拍ウラに
- 3小節目:最初の音をアンティシペーション
- 4小節目:弾く拍をズラした例
- 5小節目:2拍-3拍に分割
テンポの速い4分の4拍子では1、3でカウントする(足を踏む)。それと同じように4分の5拍子でも大きく捉えることが大切だ。
Jonathan Kreisberg
譜例下段は足でカウントする位置
発展系として付点4分でカウントする方法も実演してくれた。
さらに応用編として2人で実演してくれたのが4分の5拍子に対し8分の7拍子(ここでは2+2+3)を弾く方法。
お互いが別の拍子を感じながらの演奏は絶妙なグルーヴを生み出していた。このポリリズムこそがグルーヴさせるための重要な要素になっていることは間違いない。
[fontsize size=”2″]写真提供:AMSA Records(Photo by Goccia Tuskia)[/fontsize]
レガートテクニックについて
ハンマリング、プリング、スライドなどのレガートをあまり使わない印象だったが、実はかなり使っているとのこと。
使い方にも特徴があり、通常譜例1のようにダウンビートに向かってレガートにするのが、ネルソンは譜面例2のようにアップビートに向かって使うこともあるという。
譜例1
譜例2
全て指弾きしていたときもあったけど、レガートにした方が自分の出したい音になることに気づいたんだ。もちろんフレーズにもよるけど、同じ弦上で音を弾く場合はレガートで弾いている。
Nelson Veras
キース・ジャレット、ジョン・コルトレーン、チャーリー・パーカー、レニー・トリスターノ、ウェイン・ショーター、ミルトン・ナシメントなど、ギタリスト以外からの影響が多いため、このような演奏になったとのこと。
唯一影響を受けたギタリストとしてアラン・ホールズワースとパット・メセニーの2人を挙げていた。
スケールや手グセに頼らないアドリブをするには
JK:美しいメロディがどのように作られているのか、カッコいいと感じるフレーズがどのように作られているのかを自分なりに分析して理解すること。例えばクロマチックやエンクロージャー、ボイスリーディング、アルペジオ、コードトーンの位置など、これらの使い方を頭で理解するだけではなく耳でも理解することが大切だ。そうすることでアーティストの考え方を自分の演奏に活かすことができるようになる。
NV:付け加えるならフレーズを分析するときは、そのアーティストと全く同じ考え方にならなくてもいいということ。仮に間違った分析であったとしても、自分なりの方法論を見つけることの方が大切だね。
JK:その通り。それこそが自分の演奏スタイルを築き上げるんだ。
この質問をもって2時間近くに渡ったギター講座が終了した。お互いがジャズという言語を通して高い次元で理解し合っているのが伝わる印象的な講座だった。
生まれ持った才能と並外れた才能を併せ持つ2人がデュオで混ざり合い、至高の音楽を作り上げているのだろう。ぜひ音源を聴いてその世界を味わってみてほしい。
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