移調(移高)の限られた旋法はフランスの作曲家オリヴィエ・メシアンが体系付けしたとされるスケールで、メシアンモードとも呼ばれています。
通常スケールは12キー(Cメジャースケールなら、C、C#、D、D#、E、F、F#、G、G#、A、A#、Bの12キー)存在しますが、移調の限られた旋法は12キーに満たないスケールを指します。
メシアンはNo.1~7まで体系付けているので、それぞれどんなサウンドなのか見ていきましょう。
移調の限られた旋法No.1
No.1は各音が全音の音程になっているものです。ジャズではホールトーンスケールとして知られています。
No.1=ホールトーンスケール
No.1は2キーしか存在しません。
CからはじまるNo.1はそれぞれD、E、F#、G#、A#からはじまるNo.1と同じ音の並びになります。
C#からはじまるNo.1はそれぞれD#、F、G、A、BからはじまるNo.1と同じ音の並びになります。
ジャズではドミナントに9th、#11th、#5thのテンションが入っているときに使われます。
移調の限られた旋法No.2
No.2は半音、全音からなるトリコルド(3音の音型)が4つ組み合わさって出来たものです。ジャズではドミナントディミニッシュスケールとして知られています。
No.2=ドミナントディミニッシュスケール
No.2は3キーしか存在しません。
CからはじまるNo.2はそれぞれEb、F#、AからはじまるNo.2と同じ音の並びになります。
C#からはじまるNo.2はそれぞれE、G、A#からはじまるNo.2と同じ音の並びになります。
DからはじまるNo.2はそれぞれF、G#、BからはじまるNo.2と同じ音の並びになります。
ジャズではドミナント7th、とくにb9thと13thのテンションが入っているときに使われます。
移調の限られた旋法No.3
No.3は全音、半音、半音からなるテトラコルド(4音の音型)が3つ組み合わさって出来たものです。ジャズでの名前はありませんが、アラン・ホ-ルズワースの教則DVDではシンメトリカルスケールとして紹介されています。
No.3
No.3は4キーしか存在しません。
CからはじまるNo.3はそれぞれE、AbからはじまるNo.3と同じ音の並びになります。
C#からはじまるNo.3はそれぞれF、AからはじまるNo.3と同じ音の並びになります。
DからはじまるNo.3はそれぞれF#、BbからはじまるNo.3と同じ音の並びになります。
EbからはじまるNo.3はそれぞれG、BからはじまるNo.3と同じ音の並びになります。
b3rd、3rdとb7th、7thが共存しているので様々なコード上で使えます。通常b3rdと3rdが共存する場合、b3rdを#9thとして扱いますが、ここではあえてb3rdのまま、マイナーコード上で弾いた場合の音源も置いておきます。メジャーとマイナーを行き来するポリトーナルな雰囲気を演出できます。
No.3 on CMa7
No.3 on C7
No.3 on Cm7
移調の限られた旋法No.4
No.4は半音、半音、1音半、半音のペンタコルド(5音の音型)が2つ組み合わさって出来たものです。ジャズでの名前はついていません。
No.4
No.4は6キーしか存在しません。
CからはじまるNo.4はF#からはじまるNo.4と同じ音の並びになります。
C#からはじまるNo.4はGからはじまるNo.4と同じ音の並びになります。
DからはじまるNo.4はAbからはじまるNo.4と同じ音の並びになります。
D#からはじまるNo.4はAからはじまるNo.4と同じ音の並びになります。
EからはじまるNo.4はBbからはじまるNo.4と同じ音の並びになります。
FからはじまるNo.4はBからはじまるNo.4と同じ音の並びになります。
b3rd、3rdがないのでメジャー、マイナーどちらでも使うことができます。マイナー系のテンションが入っているので、マイナーコード上の方が使いやすいかもしれません。
移調の限られた旋法No.5
No.5は半音、2音、半音の音程で並んでいテトラコルドが2つ組み合わさって出来たものです。No.4から2音減らしたものと解釈することもできます。
No.5
No.5は6キーしか存在しません。
CからはじまるNo.5はF#からはじまるNo.5と同じ音の並びになります。
C#からはじまるNo.5はGからはじまるNo.5と同じ音の並びになります。
DからはじまるNo.5はAbからはじまるNo.5と同じ音の並びになります。
D#からはじまるNo.5はAからはじまるNo.5と同じ音の並びになります。
EからはじまるNo.5はBbからはじまるNo.5と同じ音の並びになります。
FからはじまるNo.5はBからはじまるNo.5と同じ音の並びになります。
b3rd、3rdがないので、メジャー、マイナーどちらでも使うことができます。
移調の限られた旋法No.6
No.6は全音、全音、半音、半音の音程で並んでいるペンタコルドが2つ組み合わせった出来たものです。Barry Harrisはドミナントb5ディミニッシュスケールと呼んでいます。
No.6=ドミナントb5ディミニッシュスケール
No.6は6キーしか存在しません。
CからはじまるNo.6はF#からはじまるNo.6と同じ音の並びになります。
C#からはじまるNo.6はGからはじまるNo.6と同じ音の並びになります。
DからはじまるNo.6はG#からはじまるNo.6と同じ音の並びになります。
D#からはじまるNo.6はAからはじまるNo.6と同じ音の並びになります。
EからはじまるNo.6はBbからはじまるNo.6と同じ音の並びになります。
FからはじまるNo.6はBからはじまるNo.6と同じ音の並びになります。
b3rdがないので、メジャー系のコードで使えます。
No.6onCMa7(#5)
No.6onC7(#5)
移調の限られた旋法No.7
No.7は半音、半音、半音、全音、半音で並んでいるヘクサコルド(6音の音型)を2つ組み合わせて出来たものです。ジャズでの名前はついていません。
No.7
No.7は6キーしか存在しません。
CからはじまるNo.7はF#からはじまるNo.7と同じ音の並びになります。
C#からはじまるNo.7はGからはじまるNo.7と同じ音の並びになります。
DからはじまるNo.7はAbからはじまるNo.7と同じ音の並びになります。
D#からはじまるNo.7はAからはじまるNo.7と同じ音の並びになります。
EからはじまるNo.7はBbからはじまるNo.7と同じ音の並びになります。
FからはじまるNo.7はBからはじまるNo.7と同じ音の並びになります。
3rdがないので、マイナー系のコード上で使えます。
メシアンモードを取り入れているギタリスト
移調の限られた旋法を使っているギタリストはアラン・ホールズワースとネルソン・ヴェラスが有名です。ネルソン・ヴェラスのクリニック動画では実例が学べるので、ぜひチェックしてみてください。
音楽言語の技法(オリヴィエ・メシアン著)
オリヴィエ・メシアン自らが書いた自身の音楽についての理論書(1944年発売)。翻訳版は長らく絶版でしたが2018年に再販されました。
ここで紹介したメシアンモードも実例(楽譜=五線譜のみ)とともに紹介されています。
内容はかなり専門的なので、取り組むには相当の覚悟が必要ですが、オリヴィエ・メシアンの音楽や考え方について深く知りたい方には必須の良著です。
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