使えるスケールを見つける方法は次の3つ。
- 曲のキーから見つける
- V7から見つける
- 1つ前のコードから見つける
どんなに複雑なコード進行でもこの3つを使えば、正確に使えるスケールを見つけ出すことができます。これができるようになると、
- コード進行の分析ができる
- アドリブの分析ができる
- 初見のアドリブに強くなる
- ジャズ理論の基礎が身につく
などさまざまなメリットがあります。順を追って解説していくので、ぜひこの機会に身につけてみてください。
各コードで使えるスケール
まずは基礎知識として各コードの機能とタイプ別に使えるスケールを覚えておくことが大切です。
メジャーキーで出てくるコードと使えるスケール
コードの機能 | 使えるスケール |
IMa7 | メジャー(アイオニアン) |
IIm7 | ドリアン |
IIIm7 | フリジアン |
IVMa7 | リディアン |
V7 | ミクソリディアン、ドミナントディミニッシュ |
VIm7 | エオリアン(ナチュラルマイナー) |
VIIm7(b5) | ロクリアン |
*ドミナントディミニッシュはコンビネーションオブディミニッシュと同じスケールです。
マイナーキーで出てくるコードと使えるスケール
コードの機能 | 使えるスケール |
Im7 | ナチュラルマイナー(エオリアン) |
ImMa7 | メロディックマイナー、ハーモニックマイナー |
Im6 | ドリアン、メロディックマイナー |
IIm7(b5) | ロクリアン、リクリアン♮6 |
IIm7 | ドリアンb2 |
bIIIMa7 | メジャー(アイオニアン) |
bIIIMa7(#5) | リディアンオーギュメント、アイオニアンオーギュメント |
IVm7 | ドリアン、ドリアン#4 |
IV7 | リディアンb7 |
Vm7 | フリジアン |
V7 | ミクソリディアン b9 b13、ミクソリディアン b6 |
bVIMa7 | リディアン、リディアン#9 |
VIm7(b5) | ロクリアン♮2 |
bVII7 | ミクソリディアン |
VIIdim7 | オルタードbb7 |
VIIm7(b5) | ロクリアンb4(スーパーロクリアン) |
*ロクリアン♮2はロクリアンの第2音を半音上げる意味から、ロクリアン#2とも呼ばれます。
*ミクソリディアンb9b13はハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウ、フリジアンドミナントと同じスケールです。
コードタイプ別の使えるスケール
コードのタイプ | 使えるスケール |
Ma7、6、9 | メジャー、リディアン |
Ma7(#11) | リディアン |
Ma7(#5) | リディアンオーギュメント |
mi7、9、11 | ドリアン、エオリアン |
mi7(b9)、11 | フリジアン |
mi7(b5) | ロクリアン、ロクリアン♮2、ロクリアン♮6、ロクリアンb4 |
mi(maj7) | ハーモニックマイナー、メロディックマイナー |
mi6、13 | メロディックマイナー、ドリアン |
7 | ミクソリィディアン |
7sus、9sus | ミクソリィディアン |
7(#11) | リディアン(b7) |
7(#9b9#5b5) | オルタード |
7(b9b13) | ミクソリディアン b9 b13 |
7(9#5b5) | ホールトーン |
13(#9b9) | ドミナントディミニッシュ |
Dim、Dim7 | ディミニッシュ |
Aug | ホールトーン |
上記を覚えておくだけスケールを見つける速度が格段に上がります。これを踏まえて実際のコード進行で使えるスケールを見つける手順を紹介していきます。
曲のキーから各コードの機能を調べる
スケールを見つけだす第一段階は曲のキーを調べることです。例としてAll The Things You Areの8小節を見てください。
調号にbが4つ付いているので、キーはAbメジャーかFマイナーです。
始まりのコードがFm7なのでFマイナーと考えることもできますが、3、4小節目でAbメジャーのV-I進行が出てくるので、ここではキー=Abメジャーで考えます。
*メジャーキー、マイナーキーどちらで考えても使えるスケールは同じになります。コード進行の雰囲気に合わせて選んでも構いません。
キーを決めたらそのキーから作られるコードを調べます。
Abメジャーキーから作られるコード
あとはコード進行と照らし合わせ使えるスケールを当てはめるだけです。
使えるスケール一覧
1小節目 Fm7 | Fエオリアン |
2小節目 Bbm7 | Bbドリアン |
3小節目 Eb7 | Ebミクソリディアン、Ebドミナントディミニッシュ |
4小節目 AbMa7 | Abメジャー |
5小節目 DbMa7 | Dbリディアン |
ここで悩むのが6小節目以降のG7とCMa7です。
これらはAbメジャーキー以外のコードなので転調していると判断します。つぎはドミナントコード(V7)からキーを見つける方法をみていきましょう。
V7コードからキーを調べる
6小節目のG7はキーCのV7です。
7小節目でCMa7に解決しているので、Cメジャーキーに転調していると分析できます。
CはキーAbにとって3度の音に当たるので、V7/III-IIIMa7と書きます。
コードの機能が分析できたらスケールを当てはめてみましょう。
6小節目 G7 | Gミクソリディアン、Gドミナントディミニッシュ |
7小節目 CMa7 | Cメジャー |
このように、曲のキーを基本にして調べていくことで使えるスケールが分かります。
しかしこの方法には欠点があります。それは前後の流れを考えていないことです。G7-CMa7だけを見ればキーCのV7-IMa7ですが、それが何のキーから転調してきたのか、という視点が抜けてしまっているのです。
それを解決するのが、転調前のコードスケールから選ぶ方法です。その前にV7で使えるスケールの基本の選び方を覚えておきましょう。
V7で使えるスケールの選び方
V7で使える主なスケールは4種類。キーによって使い分ける方法を知っておくとその曲の雰囲気にあったスケールを選ぶことができるようになります。まずはV7で使えるスケールの度数を比べてみましょう。
Gミクソリディアン
Gミクソリディアンb9b13
Gオルタード
Gドミナントディミニッシュ
次にメジャーキーのV7で使えるスケールとマイナーキーのV7で使えるスケールに分けてみましょう。
分け方はそのキーの3度の音で決めます。G7の場合はキーがCなので、E音が入っていればメジャー。Eb音が入っていればマイナーになります。
メジャーキーのV7で使えるスケール
Gミクソリディアン
Gドミナントディミニッシュ
マイナーキーのV7で使えるスケール
Gミクソリディアンb9b13
Gオルタード
曲のキー以外のV7で使えるスケールの選び方
ジャズスタンダードでよく出てくる部分転調したときのV7は転調前のコードスケールから見つけます。
もう一度All The Thing You Are6小節目のG7をみてください。ここでは何スケールが最適でしょうか。
実はコード進行には音を持続させたいという性質があります。5小節目のDbMa7で使えるDbリディアンスケールの音をそのままG7で使うと何度の音になるのか確認してみましょう。
DbリディアンスケールをG7で弾いたときの度数
ここにはCメジャーキーのE音が含まれていません。つまりDbMa7-G7と進む場合、G7ではGミクソリディアンb9b13とGオルタードを使ったほうが、コード進行の流れに合った響きになります。
曲のキーで出てくるV7はメジャーに解決しているかマイナーに解決しているかでスケールを選び、転調して出てくるV7は前のコードのスケール音から判断することで、コード進行の流れを活かしたスケールを弾くことができます。
キーの無いコード進行でのスケール選び
スタンダードの中には曲中での転調が多く調号をつけられない曲があります。その場合はコードの機能ではなく、コードタイプから使えるスケールを見つけていきます。
Day WavesのBセクション8小節を例に実際に使えるスケールをみていきましょう。
1小節目のF#m7(b5)で使えるスケールは、F#ロクリアン、F#ロクリアン♮2、F#ロクリアンb4の3種類です。
この中から好きな響きのするスケールを選びましょう。ここではF#ロクリアンを選んでみます。
FmM7はFメロディックマイナーかFハーモニックマイナーが使えます。
この2つのスケールの違いは6thの音です。b6th(Db音)ならハーモニックマイナー、6th(D音)ならメロディックマイナーになります。
前のコードで使えるF#ロクリアンにはD音が含まれているので、FmM7ではFメロディックマイナースケールが最適になります。
C/EはCトライアドの3rdがベースになっているだけなので、Cコードと考えます。使えるスケールはメジャーかリディアン。
重要なのは11thの音です。#11th(F#音)ならリディアン、11th(F音)ならメジャーになります。
前のコードで使えるFメロディックマイナーにはF音が含まれているので、C/EではCメジャースケールが最適になります。
B7/D#はB7コードの3rdがベースになっているのでB7と考えます。7thコードは選択肢が多いのでまずは9thに注目してみましょう。
前のコードスケールはCメジャー。ここにはB7のb9(C音)と#9(D音)が含まれています。この音が含まれるスケールはBオルタードかBドミナントディミニッシュです。
次に5thをみてみましょう。CメジャースケールにはB7の#5(G音)が含まれているので、B7ではBオルタードスケールが最適になります。
ドミナントコードで使えるスケールは選択肢が多いので、少しずつ絞っていく方法が最適です。
G/DはGコードの5thがベースになっているのでGコードと考えます。ここでは11thの音が判断の材料になります。
BオルタードにはGコードの11th(C音)が含まれているので、Gメジャースケールが最適です。
次のA7(b9)/C#はA7コードの3rdがベースになっているので、A7と考えます。(b9)とテンションが指定されている場合は、テンションを優先します。
b9が含まれるスケールは、AオルタードかAドミナントディミニッシュ。GメジャースケールにはA7の5th(E音)が含まれているので、Aドミナントディミニッシュスケールが最適になります。
F/CはFの5thがベースになっているのでFコードと考えます。
AドミナントディミニッシュスケールにはFの11th(Bb音)が含まれているのでFメジャースケールが最適です。
最後のAb7sus4コードは前後に関係なくミクソリディアンスケールを選ぶのが最適です。
以上が使えるスケールの第一候補です。これらを使って演奏してみましょう。
8小節でのアドリブ例
このように、
- 曲のキーから見つける
- V7から見つける
- 前のコードから見つける
この3つを使えば、全ての曲で使えるスケールを適切に選ぶことができます。
ただし、これらの方法で導き出したスケールしか弾けないというわけではありません。あくまで最初の選択として最適なスケールなので、そこから自分の表現したい響きに合うスケールにアレンジしていくことも可能です。
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